初秋にほんわか温かい/スイッチョねこ

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京都にある素敵な本屋「恵文社一乗寺店」。ここには猫の本がまとめて置かれている本棚がある。猫好きの僕たちは、京都に行くたびに訪れるのだけど、「スッチョねこ」もここで買った一冊だ。

主人公は、真っ白な子猫・しろきち。その夏に生まれたばかりのしろきちはきれいな声でなく秋の虫を食べたくて食べたくて、暗闇で待ち伏せ。そして、念願かなって胃袋に収めるものの、お腹の中で鳴かれて不眠症に…という物語だ。

しろきちには、ふたりの兄弟(白黒の八割れと白虎)、そしてブチ猫のお母さんがいる。日本画を学んだという安泰の絵は、近頃のファンシーな絵本とは異なり、正確なデッサンと素朴な色づかい。庭のハヤや緑、月のぼんやりとした明かり、秋の虫たちがていねいに描かれている。

そして最後のページ。猫好きの作者・大沸次郎は「じょうぶで いきていれば、この よのなかが どんなときもたのしいし、よいものだと しっていました(後略)」と語る。暗いニュースばかりが繰り返される今日において、その一文はコスモスの横で戯れる三匹の子猫の絵と相まって、読む者の気持ちをやさしく、ほんわかと温めてくれる。

スイッチョねこ
文・大佛 次郎
絵・安 泰
フレーベル館
1975年初版