こんなふたりになりたい / herb & dorothy

このごろ高齢のご夫婦の姿が微笑ましく見える。散歩していたり、買い物していたり。長い時間をともにしたふたりが肩を寄せ合う姿は、それだけで味があるというか。この映画のふたりもとびきりかわいく素敵だった。
ニューヨーク・マンハッタン、1LDKの小さなマンションにつつましく暮らしながら、4,782点ものアートをコレクションしたハーブ&ドロシー。彼らはひとつの作品に興味を持てば、アーティストに全作品を見せてほしいと頼み、若いころの作品から現在の作品までの推移を見つめ、自分たちの感性に響く作品を買い求める。ニューヨークを離れたアーティストには、親が子どもにするようにまめに電話をかけながら交流を続ける。その姿はまるで自分の子どもと接しているようで、アーティストとともに生きているようだ。そんなふたりはたった1点の作品を売ることなく、アートを買い続ける。売却すれば大金持ちになれたのに、小さな部屋に暮らしながらひたすら収集するのみ。後に部屋に収まらなくなったコレクションはアメリカ国立美術館ナショナルギャラリーにすべて寄贈。新聞やテレビでも取り上げられ時の人になるのだが、その暮らしぶりは変わらず。お互いを支え、敬いながら毎日を暮らし、同美術館などで多くの人々とコレクションを共有することに喜びを感じる。
アートにまつわる映画というと小難しく感じる人もいるかもしれない。Twitterの僕のTL(タイムライン)では盛り上がっているけれど、名古屋での公開は映画好きな人が通う小さな劇場だ。しかしハーブがドロシーに、ドロシーがハーブに、そしてふたりがアーティストや作品に向けた豊かな愛情はわかりやすく、小気味良い編集と相まってだれが観ても楽しめる良作に仕上がっている。冷たい木枯らしが吹いていても、長く寄り添いたいと願う(あるいは長く寄り添った)だれかと観に行けたらしあわせだと思う。

ハーブ&ドロシー 公式サイト
名演小劇場