松浦寿輝さんの「afterward」。

今朝、NHKのラジオ第一放送で松浦寿輝さんの詩が紹介されていました。3月29日の朝日新聞夕刊に掲載されたもので、ご存じの方も多いかもしれませんが、こちらでも紹介させてください。

afterward

惨禍の一瞬が私たちの生を
「その前」と「その後」とに分断した
なぜ彼らは(君たちは)そんなに
平静なのか 平静でいられるのか と
ある知り合いのフランス人が言った
呆れたように なじるように
そう見えるだけだよ と私は答えた
しかしもし平静と見えるのなら
それはとてもよいことだ とも
なぜなら「その後」をなお私たちは
生きつづけなければならないから
悲嘆も恐怖も心の底に深く沈んで
今はそこで 固くこごっている
それがやわらかくほとびて 心の表面まで
浮かび上がってくるのにどれほどの
時間がかかるか 今は誰にも判らない
それまで 私はただ背筋を伸ばし
友達にはいつも通りに挨拶し
職場ではいつも通りに働いて
この場所にとどまり 耐えていよう
心の水面を波立たせず 静かに保つ
少なくとも保っているふりをする
その慎みこそ 「その後」を生きるものの
最小限の倫理だと思うから

この先、長く続くであろう「その後」。僕たちもふだんどおりの生活を続けながら、できる範囲の支援を続けて行きたいと思います。