32年前のフレンチトースト / クレイマー、クレイマー


「クレイマー、クレイマー」を観ました。テレビでぼんやりと観たことはありましたが、いつかきちんと観たいなと思っていた作品です。
物語の冒頭、家庭を顧みない仕事人間のテッドは妻ジョアンナに別れを告げられます。説得もむなしくジョアンナは家を出てしまい、テッドと5歳の息子ビリーのふたり暮らしが始まります。最初の朝、フレンチトーストですら上手に焼けないテッドですが、仕事と育児の両立に奮闘。失業やビリーの怪我などのトラブルを乗り越えて、父子の絆は日に日に強くなっていきます。しかし突如、舞い戻ったジョアンナに裁判を起こされ、養育権をめぐり争うことになります。
最初こそ不慣れな家事や仕事との両立に戸惑い、苛立つテッドですが、息子ビリーとまっすぐ向き合うその姿は印象的。食事の準備、学校への送り迎え、寝かしつけ、PTAまでこなします。映画が公開されたとき、つまり今から32年前、彼のような父親はおそらくほとんどいなかったのではないでしょうか。そして当時の母性神話に対して、峻烈なアンチテーゼとなったのではと思います。
最近では家事や育児に積極的な男性も増えてきました。それでもななお母性神話は女性、男性いずれの前にも強固に立ちはだかっているように感じます。でもこの映画のように親子の愛情に男女の差はないのです。映画の終わり間際、テッドとビリーがフレンチトーストをいっしょに作るシーンは、父と子の愛情が卵とミルクのように混ざりあい、甘く優しい家族の味を想像させます。多くの人が観終わったあとにフレンチトーストを食べたくなるのもよくわかります。子育てに奮闘するすべての人に、等しく勇気を与えてくれる映画だと思います。