引き継ぐこと/THIS IS IT

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年上のアートディレクターが、管理職に就いたとき「いつまでも作り続けるというのは辛いだろう」と言った。間の悪いことにそのとき僕は仕事の谷間にいて、彼の言葉がまるで呪いのように、頭の上をグルグル回り続けていた。でも「THIS IS IT」を観ていたら、その言葉は呪いでもなんでもないように思えてきた。
ベストヒットUSA世代な僕にとってのマイケル・ジャクソンは、あの時代がピークだった。その後に出てくるものは後日譚のようなもので、むしろスキャンダルの方が目立っていた。ポップスターはゴシップにまみれ地に墜ちた、そんな感じ。だから彼の突然の死を伝えるニュースにも驚かなかったし、この映画の話にしても取り巻きの人々に最後の最後まで利用されてると思ったぐらいだった。
でも、それは間違っていた。音楽、ダンス、映像を駆使して、だれも観たことのない、全く新しいステージを作ろうとする情熱。偉ぶることなく、周囲を気遣いながら大勢のスタッフと協調する姿勢。そして50歳という年齢をみじんも感じさせないヴォーカルとダンス。2時間弱の上映時間はあっという間に過ぎていった。本当に楽しかった。踊れないけど(笑)、身体がウズウズした。
リハーサルでこのクオリティだ。もし、本番のステージを観ることができたら、どんなに素晴らしいだろうと思う。しかしながら、僕たちは既に多くのものを受け取っている。彼からのバトンを引き継いで、それぞれの場所で生きていくことができるのだ。

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