季節を旅するおやつ。

名古屋・本山のこだわりの喫茶店、milou(ミル)のおやつ担当、夏子さんが作るケーキを撮り始めて、ぐるり1年。忙しくて撮れなかった時期もあるけれど、改めて振り返るとバリエーションが豊富なことに気づく。特に秋から冬にかけては、あかねりんごに始まり、大雪かぼちゃ、雪の下人参と季節感も豊かだ。
milouをオープンする前、作物本来の味を引き出す永田農法で作られたトマトの味に驚き、旬のおいしさを提供したいと考えたふたり。その想いは今も変わらないまま。ある秋の日、夏子さんは届いたばかりの大きなかぼちゃを切りながら、「ホントは塩蒸してそのまま食べるのが一番おいしいんだけど、それを出すわけにはいかないから」と笑う。そんな夏子さんが作るかぼちゃのケーキは、さいの目に切ったかぼちゃがたっぷり。注文するとトースターで軽く温められ、ほんのり甘い香りとともにテーブルへ。ほおばるとかぼちゃのほくほく感、やさしいおいしさが広がる。
どの街にも同じコンビニやファミレスが並び、スーパーには1年を通して同じ果物や野菜が並ぶ。そんな便利すぎる日常に、僕たちは旬を忘れ、四季に鈍感になりそうになる。だけどmilouには秋になれば「あかねりんごのケーキはまだかなー」なんてお客さんがたくさん訪れる。そして口いっぱいに季節の味を楽しんで、満足そうに帰っていく。僕たちはふたりがめざしているナチュラルでスローなおいしさに惹かれているのだと思う。

チーズケーキ(通年/写真、本文上)
スフレとベイクドの中間ぐらいでふわりとしたやさしい食感のチーズケーキ。そのルーツはふたりがまだお店を始めるずっと前。夏子さんが作ったものをよしさんが「まずい」と言ったのがきっかけになり、休みのたびごとに試行錯誤。何十個とつくった後に完成したレシピは、milouの看板メニューになりました。
使われている卵は、伊那・にしわきファームのもの。抗生物質を使わず、無理のないペースで産まれる卵は健康そのもの。ほかのケーキやアイスクリームにも使われています。


スコーン(通年)
もうひとつの看板メニューがスコーン。外はサクサク、中はしっとりふわふわの食感はmilouのオリジナル。新鮮な粉の味、良質なバターの風味が豊かに広がるプレーンスコーン、オーガニックの全粒粉が味わい深いくるみスコーンの2種類。くるみのスコーンにはレーズンやいちじくなどオーガニックのドライフルーツが日替わりで入っていて食べ飽きません。
いっしょに食べるとおいしいいちごのジャム(写真右)は、自生した野いちごを手摘みしたもの。ほかにもメープルシロップ、半分に切ったスコーンにのせて焼くチェダーチーズも、ふたりがしっかり選んだもの。いろいろな組み合わせで食べてみたくなります。


アイスクリーム(5月から9月ごろ)
卵と生クリーム、粗糖、バニラエキストラクトだけで作られるシンプルでおいしいアイスクリーム。まざりけがなく溶けやすいので、出てきたらおしゃべりはひと休み。「通年出してもいいけれど、季節感を大切にしたいから」と夏季限定にしているのもふたりらしいのです。


あかねりんごのケーキ(10月ごろ)
酸味が強いあかねりんごがたっぷり使われたぜいたくなケーキ。りんごは焼き煮することで甘みが増し、皮の赤みも果肉に移り、かわいい色合いに。皮まで安心して食べられるよう、実がついてからは農薬を使わない農家さんから仕入れています。


大雪かぼちゃのケーキ(11月から12月初旬ごろ)
一株からひとつの実しか取らないという「大雪かぼちゃ」をさいの目に切って塩で蒸し、皮ごとたっぷり散りばめたもの。かぼちゃのおいしさを、まるごと味わうことができます。


ココアケーキ(12月から1月ごろ)
フェアトレード・People Treeの純ココアをぜいたくに使ってつくられたケーキ。生地に散りばめられたチョコチップもPeople Treeのチョコレートを砕いたもの。有機のカカオマス、砂糖、ココアバターのみで作られ溶けやすいため、冬だけの限定販売。milouでこのケーキが食べられるのもこの時期だけです。


きんかんケーキ(1月ごろ)
樹の上でじっくり育てられ熟したきんかんは甘く、特有の渋みが少なめ。サイズが大小不揃いのきんかんを使っているそうで、夏子さんはひとつひとつていねいにヘタと種を取ることから作業を始めます。粗糖で煮詰めてから、適当な大きさに切りそろえて生地の中へ。焼き上がるときんかんを煮たときにできたシロップをたっぷりかけてしっとり仕上げています。