ON READINGで皆川明さんのお話を聞いて。

5月27日(日)、名古屋・東山公園のON READINGで開かれた皆川明さんのトークイベントに行ってきました。お店の中央に椅子を並べ本棚に囲まれた小さな会場では、皆川さんがすぐそこにいます。「目がちゃんと合うぐらいの距離なので、会話するみたいに始まってもいいのかな」。皆川さんは穏やかな声で語り始めました。
minaを立ち上げたときのこと、mina perhonenのネーミングのこと(minaはフィンランド語の「自分、私」の意で、「自分の名前にかけたつもりはないのだけどね」というくだりにみんなクスクス)。そしてブランドスタート時から名古屋でミナの服を扱っているpieni huone(ピエニ・フオネ)の吉田さん、小池さんとの出会いのことなど、mina perhonen初心者の僕にも楽しいお話ばかりです。
服作りのお話も興味深く聞きました。半年スパンで生み出され、消費されていく既製服をもっと長く、愛用されるものにしたい。既製服の既成概念を変えたいという言葉は、特に強く響きました。会場である方が着ていたミナの服を見て「カタチは新しいものだけど、テキスタイルは10年前のデザインなんだよ」とか、「最近は古い洋服の修理の依頼が増えてきて嬉しい」とか。安いもの、速いものがもてはやされがちな慌ただしい現代に、皆川さんの息の長いものづくりは、ゆっくり、確実に浸透しているようで嬉しくなりました。
また皆川さんは自身の仕事について、以前は着る人の幸福を追えばよかったけれど、今は作る人の満足追求したいと話します。日本の各地にはすぐれた生産現場があるにも関わらず、生産コストを優先するばかりに海外の工場に仕事を奪われ、結果、経営が成り立たなくなり、技術が引き継がれることなく廃れてしまう。そんな事例が少なくありません。
そこで皆川さんは国内の生産現場と協働し、コンスタントに仕事を創造していると言います。たとえば、優良な毛織物の産地として知られ、現在も国内生産の7割を占めるという愛知県の尾州産地(尾張西部地域)では、洋服の生産量が減る春から夏にかけてインテリアの布やリネンをオーダー。機械を止めず、一年を通じて生産が安定するように工夫し、「日本でものを作れる状態を守りたい」と語ります。
そんな現場との良好なリレーションは、結果的に服の完成度を高めることになります。デザインする人、作る人、着る人、みんながしあわせになれる服づくり。目には見えないmina perhonenの魅力をひとつを理解できたように感じ、嬉しくなりました。
そして、まわりの人と手を携え真摯に物事を進めている姿は、このイベントでも垣間見ることができました。皆川さんは一方的に話すのではなく、会場からの質問を受けながら、言葉を選び、しっかり答えます。あっという間に過ぎていく時間の中で、本棚に囲まれた素敵な会場は、温かな空気に満たされていったのでした。

追記:
予定を20分ほども押したトークイベントの後には、サイン会がありました。当然のように長蛇の列ができるのですが、皆川さんは一人ひとりと会話し、写真を頼まれれば立ち上がり、そして一冊一冊の本にていねいにイラストを描かれていました。僕たちも「mina perhonen ?」にはつがいの鳥、キムラの愛読書「皆川明の旅のかけら」には表紙のパターンを描いていただきました。

ON READING
pieni huone
ミナと百草。重なる思考。@picturely